「CPU、マザーボード、電源。考えられる原因をすべて新品に交換した。なのに、まだ直らない」
そんな絶望的な状況から相談が届きました。
今回紹介するのは、AM5プラットフォーム(Ryzen 7 9700X)環境で発生した、異常に難易度の高いトラブルシューティングの記録です。
症状の原因は、誰もが最後まで疑わなかった「メモリ」でした。しかも、MemTest86では一切エラーが出ない、一見「正常」なメモリです。
依頼時のPC構成と症状
構成
| パーツ | 型番 |
|---|---|
| CPU | AMD Ryzen 7 9700X |
| マザーボード | (AM5対応 ATXモデル)※相談時点での初期構成 |
| メモリ | DDR5-6000 16GB×2(QVLに非掲載のサードパーティ製) |
| SSD | NVMe M.2 Gen4 1TB |
| 電源 | 750W 80PLUS GOLD |
| GPU | RTX 4070 |
症状一覧
相談者から届いた症状のメモは、こんな内容でした。
- 起動不良:電源を入れても POST(起動時の自己診断)で止まる
- 再起動ループ:Windowsが起動しかけてリセットがかかる
- SSD消失:BIOSからM.2 SSDが突然認識されなくなる
- フリーズ:Windowsが起動できたとしても、数分〜数十分でハングアップ
- iGPU切替で症状軽減:ディスクリートGPUを外し内蔵グラフィックで使うと、やや安定する
SSDが「消える」という症状が特に印象的でした。ストレージ本体の故障と思い込みやすいですが、これが今回の大きなミスリードになります。
相談者が実施した切り分け作業
相談者はかなり知識のある方で、自力での切り分けも相当なレベルで行っていました。
実施済みの対応
- SSD交換 → 症状継続
- CMOSクリア・BIOS初期化 → 一時的に改善するが再発
- メモリ1枚挿し(スロット変更) → 症状継続
- CPUをRMA(メーカー返品交換) → 新品に交換するも症状継続
- マザーボードを別メーカーの新品に交換 → 症状継続
- 電源を別モデルの新品に交換 → 症状継続
- MemTest86でメモリを12時間テスト → エラー 0件
ここで多くの人が手詰まりになります。「三大主要パーツを全部交換してもダメ」「メモリはMemTestで正常」。
通常の診断ツリーは、この時点でほぼ使い物になりません。
MemTest86が「正常」でも安心できない理由
「MemTest86でエラーなし=メモリは正常」という認識は、DDR4時代まではほぼ正しかったと言えます。
しかしDDR5×AM5の組み合わせでは、この前提が崩れるケースがあります。
DDR5のメモリ品質管理は「モジュール内」にある
DDR5では、各メモリモジュールの基板上に PMIC(電源管理IC)とSPD Hub が搭載されています。メモリ自体が独自に電圧・タイミングを管理するようになりました。
これは電力効率の観点では進歩ですが、マザーボードとの「交渉」が複雑化したことを意味します。
Memory Trainingとは何か
AM5環境でPCを起動すると、UEFI(BIOS)はまずメモリとの「握手」を行います。これを Memory Training(メモリトレーニング) と呼びます。
DDR5-6000のような高速メモリを動かすためには、このトレーニングで細かいタイミング調整(サブタイミング)が行われます。
QVL(Qualified Vendor List) に載っているメモリは、マザーボードメーカーが実際にそのマザーで動作検証したもの。トレーニングが成功することが保証されています。
QVL外のメモリは、トレーニングが「なんとなく完了したように見える」状態で進んでしまうことがあるのです。
MemTest86はトレーニング後のメモリに対してデータの読み書きチェックを行います。トレーニング自体が不完全な場合、データアクセスは成功してもシステム全体が不安定になるという矛盾した状況が生まれます。
なぜSSDが「消える」のか——Infinity Fabricの話
ここが今回のケースで最も興味深い部分です。
「メモリが不安定なのになぜSSDが消えるの?」と思いますよね。
AM5のアーキテクチャ
Ryzen 9000シリーズのCPUは内部に Infinity Fabric と呼ばれる高速インターコネクトを持っています。CPUコア、内蔵GPUコントローラー、PCIeコントローラー、メモリコントローラーは、すべてこのInfinity Fabricを通じて通信しています。
簡単に言えば、CPU内部の「すべての幹線道路が1本につながっている」状態です。
メモリコントローラーが不安定になると、Infinity Fabric上の通信品質全体が低下します。 その影響がPCIeバス経由で接続されているM.2 SSDのリンクにも波及し、突然の「認識消失」として現れるわけです。
また、GPUを外すと症状が軽減した件も同じ理由で説明できます。GPUはPCIe ×16という大量の帯域を消費します。これをなくすことでInfinity Fabric全体への負荷が減り、不安定さが「マシになった」ように見えていたのです。
解決の鍵:QVL適合メモリへの交換
私からの提案はシンプルでした。
「そのマザーボードのQVLに掲載されているDDR5メモリに交換してみてください」
具体的にマザーボードメーカーのサポートサイトからQVLリストをダウンロードし、DDR5-6000帯で動作確認済みのメモリ(Micron、SK Hynix、Samsungのいずれかのチップ搭載品)をリストアップしてお伝えしました。
結果
メモリ交換後、すべての症状が消えました。
- 起動不良:なし
- 再起動ループ:なし
- SSD消失:なし
- フリーズ:なし
交換したメモリは、スペック上は以前のものと大差ありません。DDR5-6000、同じ容量、同じ価格帯。違いは「QVLに載っているかどうか」だけです。
まとめ:自作PCトラブルの教訓
今回のケースから学べることをまとめます。
1. QVLは「参考」ではなく「動作保証の根拠」
特にDDR5×AM5環境においては、QVLはパーツ選定の重要な基準です。価格や口コミだけでメモリを選ぶと、今回のような再現困難な問題を踏む可能性があります。
2. MemTest86のパスはDDR5では十分条件ではない
Memory Trainingの失敗は、データ破壊エラーとして現れるとは限りません。「安定した信号で動作しているか」と「データが正しく読み書きできるか」は別の問題です。
3. 症状が複数・広範囲に及ぶときはメモリを疑う
SSD、GPU、USB、起動、フリーズなど、一見バラバラに見える症状が複数出ているときは、共通基盤(メモリまたは電源の信号品質)が原因のことが多いです。
4. AGESA(BIOSのファームウェア)の更新も有効
マザーボードメーカーは定期的に AGESA(AMD Generic Encapsulated Software Architecture)のアップデートを行い、Memory Trainingアルゴリズムを改善しています。QVL外メモリでも、BIOSアップデートで改善することがあるため、確認する価値はあります。
このようなトラブルも、プロに相談できます
今回のケースは、パーツを3種類も交換してもなお原因を特定できなかったほど難易度の高いトラブルでした。
しかし、 「症状の組み合わせ」「AM5の内部アーキテクチャ」「QVL外メモリの挙動」 というピースがつながった瞬間、解決策はシンプルでした。
こうした「論理的には原因がわからない」トラブルこそ、経験と知識が問われる場面です。
Null PC Architectureでは、PCトラブル対応を2,500円〜承っています。
- 症状の整理と原因の仮説立て
- パーツの切り分け順序の提案
- QVLチェックや代替パーツの選定サポート
- リモートでのBIOS設定・ログ確認
「直し方がわからない」だけでなく、「どこから手をつければいいかわからない」という段階からでも対応します。
相談窓口
まずは気軽にLINEで相談
症状や構成を書いて送ってもらえれば、方針を一緒に考えます。
500円で構成チェック・トラブル診断
症状が複雑な場合や、パーツ選定の相談も含めてしっかり見てほしい場合は、ワンコイン診断をご利用ください。